設立の背景
NPO通信No.10
NPO法人に見る逆転の発想

 30年ほど前でしょうか。逆転の発想というのが流行ったことがありました。 ロケット博士と呼ばれた糸川英夫さんの本で、確か当時のベストセラーになったのではなかったかと思います。 糸川さんには、その頃の仕事の関連で講演をお願いしたことがあって、 逆転の発想についての話はそのときに伺ったはずですが、内容の方はすっかり忘れてしまって、 講演料が驚くほど高かったことだけを覚えています。
 さて、NPO法人の方の話ですが、インターネットを見ていたら、 面白い案内が出ていました。あるNPO法人が「田んぼの草取りツアー」 の参加者を募集していたのです。参加費は、学生9,500円、社会人11,000円(往復交通費、 宿泊費、食事代、ボランティア保険代を含む)となっています。金曜日の深夜に新宿駅に 集合して深夜バスで山形まで行って、田んぼの草取りをして、日曜日に帰ってくると言うのです。 1万円ほどの参加費まで払って。
 日本各地に「田の草取り歌」が残っていますが、田んぼの草取りが 農民にとってどんなに重労働か知っている人なら、何が悲しくて田んぼの 草取りにカネまで払って行かなくてはならないのか、と言いたくなるかもしれません。 でも、おカネをもらっても行きそうにない田んぼの草取りに、わざわざおカネを払って 参加しませんかと呼びかけているところが面白いと思いませんか。
 昔から援農といって、農作業を手伝うボランティアはありました。 特に奄美や沖縄のサトウキビ刈りの援農などは有名で、昔は それに参加した友人知人が何人もいて体験談をよく聞かされたものです。 ところが、今は援農を呼びかけても参加者がなかなか集まらない。 そこで、いくらかでも報酬を出したり、交通費を負担するなどして 来てもらおうとしていますが、どだいそんなに高い報酬を出せるわけがないので 参加の誘因にはなりません。そのため、多くの援農事業は慢性的な人手不足に悩んでいます。
 そこへ現れたのが、この参加者がおカネを払って援農するという発想です。 今までとどこがどう違うのか。今までの援農は、端的に無償または有償の 労働に過ぎませんでした。それが、参加者がおカネを払うことによって 有償で行う趣味または自己実現の一環へと変わったのです。そういえば、 あるNPO法人が開催している「おカネを払って富士山のゴミ拾いに参加する」 というツアーもなかなかの人気だそうです。
 参加者におカネを払って労働(奉仕)してもらう仕組みから、 参加者がおカネを払って自己実現してもらう仕組みへ。
 まさに、この逆転の発想はNPO法人ならではと言えるのではないでしょうか。
                                                            (田中義幸)