設立の背景
NPO通信No.14
地域通貨と贋金つくり

 アンドレ・ジイドの小説『贋金つくり』には、少年を使って贋金を流通させよう とする悪い一味が出てきますが、ジイドはそれだけでなく、自分の虚像を顕示する 人間の姿も贋金として描いたのだと言われています。人間の虚像の方はともかく、 贋金つくりは、現実にやったらどうなるか。刑法第148条にはこう定められてい ます。「行使の目的で、通用する貨幣、紙幣又は銀行券を偽造し、又は変造したも のは、無期又は3年以上の懲役に処する。」と、他の犯罪に比べても驚くほどの厳 罰です。通貨の偽造が我々の社会にとっていかに脅威であるかを示していると言え そうです。
 地域通貨を発行することは、もちろん通貨偽造には当たりません。貨幣や銀行券 などのほんものに類似のものをつくる偽造と違って、別の種類の通貨を発行するこ とになるからです(と自信たっぷりに言いましたが、おそらくそういうことなんで しょう)。といっても、その地域通貨がほんものの通貨の地位を脅かすほどに流通 し始めたら、やはりただでは済まないのではないかという気はします。ということ は、現在使われている地域通貨は、ほんものの通貨から見れば、まだほんのとるに 足りない存在だからこそ、ただで済んでいるというところがあるんでしょうか。も っとも、スイスで70年以上も使われている『WIA』という地域通貨などは、ス イス国内の中小企業6万社の決済通貨として使用され、取引の総額は3,600億 円にものぼるそうですから、そう侮られた存在でもありません。
 先日、この地域通貨を使って税理士や弁護士などの専門家サービスを受けること ができないかというテーマで、シンポジウムが開催されました。実際に地域通貨を 発行している団体やNPO法人などの人たちが参加して、いろんな可能性や問題点 などについて意見が交わされました。
 その中で、出てきた問題の一つは、専門家が提供するサービスの内容や質がいろ いろ違うのに、それをいくらに評価して地域通貨をもらうのかという点でした。そ れから、実際に地域通貨をもらっても、それをどう使うのかという問題も提起され ました。喫茶店の割引券として使えるとか、有機栽培の野菜をもらえるとか、田舎 の藁葺き屋根の家に宿泊できるとか、いろいろありましたが、ほんとにそんなこと に使いたいかなあという疑問なども出されました。その他、可能性としては、そこ のNPOの会報やホームページ、メルマガなどで宣伝してもらう、事務所の入力作 業や発送作業などの手伝いに来てもらう、それからNPOブックスという自費出版 の本をたまった地域通貨で出せるといったアイデアなどもありました。
 しかし、現実にそうなったら税務上の取扱いはどうなるんだろうと、税理士の会 員からはそんな疑問が出されていました。(NPO関係者が前に税務署に尋ねたと きは、そんなにたいした程度でなければ、特に問題がないような話だったそうです が…)。
                                                            (田中義幸)