宗教アカウンタント通信No.102


〇仲間との会話から


〇仲間との会話から

 先日、2週間にわたりある寺に入り、僧としての修行を行ってきました。筆者は 密教系の僧侶ですので行の詳細は明らかにはできませんが、おおまかに申し上げる と、両手の指で印を結び、真言を唱え、心で観想して曼荼羅の諸尊との対話を試み る、ということを繰り返しておりました。

 2週間の間、世間の情報から一切遮断され、結果的に自分と向かい合う時間が想 像以上に増えました。と同時に、今回の行は志を同じくする20代から50代の僧 侶10名ほどとの合宿生活でしたので、それぞれの寺における現状、課題、問題点 等を率直に話し合う機会をたっぷり持て、その意味でも有意義でした。

彼らが語った中で特に印象に残った話がいくつかあります。

・寺は人里離れた地域にあり生活するには支障があるので、夜は戸締りをして寺を  出て、街中の住宅に寝泊まりしている。 ・地域の住民は全員顔と名前が一致する。ここ数年減ることはあっても増えてはい  ない。 ・年間の法事は10から20件程度。平日は地方公務員などに従事し、家族の生計  を維持している。  寺院は宗教法人化しているが、恒常的に役員職員に給与を支払えるような財政の  余裕はない。  お布施を法人の会計に入れ、消耗品や光熱費などを法人の会計から支出している。 ・現状でも厳しい状況なので、数十年後の地方寺院の姿などまったく見えない。

 特に地方の人口減少に伴う地域社会の経済規模縮小はこの国の深刻な問題となっ ています。寺院についてもその例外ではなく、墓じまい(ご遺骨を取り出して墓石 を処分、墓所を返還すること)、あるいはお墓は維持しつつも盆・彼岸の墓参のみ、 といった、檀信徒さんと菩提寺との関係の希薄化の傾向は近年拍車がかかっており、 各寺院としても宗派としても自体の深刻さを認識しています。

 そんな中でも。今回修行を行った仲間たちは、寺の将来を案じる以前にひとりの 僧としてひたすら真摯に仏教と向き合い、行を通して丁寧に諸尊との対話に取り組 んでいました。臨床宗教師なりファイナンシャルプランナーなり、周辺分野の知識 を身につけ、一般の方からの幅広い分野の相談に応じられるようになることを志向 する筆者のアプローチとは異なりますが、まず自らが僧としての徳を高めようと行 に取り組む彼らの姿は、時間はかかるかもしれませんが、結果的には檀信徒さんを はじめとする一般の方の支持を得るであろうと確信しました。

 私も僧としての基本に立ち返り、身だしなみや所作から自分を見つめ直していき たいと思いました。


(宗教法人アカウンタント養成講座 講師 高橋 泰源)