宗教アカウンタント通信No.103


〇ゼロ葬


〇ゼロ葬

 まだあまり聞きなれない言葉でしょうか。これは、「遺骨の処理を火葬場に任せ、 一切受け取らず、持ち帰らない葬儀のやり方」をさします。
 そもそもご遺骨はすべてをお骨壺に入れて持ち帰ることが決まっているわけではありません。 一定割合を持ち帰り、残りは火葬場に置いて処理を任せることも、特に西日本では比較的広範囲で行われています。
 ですから「ご遺骨を全部火葬場に置いてあとの処理を任せる」というゼロ葬のスタイルも、その延長線上にある、と言えるかもしれません。その際、火葬場に残ったご 遺骨は通常、場内の無縁墓地、あるいは提携している寺院の無縁墓地に後刻納骨されます。
 ちなみにご遺骨の処理については都道府県の条例レベルで規定が異なり、すべての 地域でこの方式が認められているわけではありません。

 では、どのような方が亡くなった時にこの方式がご遺族に選択されるのか。筆者の 住職としての経験で申すならば、「長年行方知らずだったご兄弟」「両親の離婚等の 理由で、しばらく会っていなかった近親」などが亡くなった際に役所等から連絡が入り、 やむを得ず遺体を引き取ってご葬儀を執り行う場合。つまり、故人と喪主様の心理的 距離が多少あるケースが多いです。

○費用はどうでしょうか。ある葬儀社のプランはこちらです。

全骨委託プラン \128,000 ……火葬後の全ての遺骨の埋葬を火葬場へ委託
分骨プラン \148,000 ……遺骨の一部のみ専用容器にて持ち帰り、残りは火葬場に埋葬を委託(専用容器とは茶筒程度の
              大きさの、小さいお骨壺です)

 当然といえば当然ですが、明らかに通常の墓所よりも割安、永代供養墓の合祀(お 骨壺でなく、お骨を墓所に撒く方式))や海洋散骨とほぼ同水準の価格帯でしょうか。 この価格と引き換えに、いわばお墓参りと墓地継承の義務からは解放される、という わけです。

 さて、この方式を我々はどう受け止めればよいでしょうか。確かにお墓がなければ、 墓参をする必要はなくなります。
 しかし、そもそもお墓参りは義務なのでしょうか。亡くなった方を偲び哀悼の意を 表する対象のひとつがお墓であり、我々は子供のころから好むと好まざるにかかわら ず墓所に連れていかれて、親や祖父母の所作を真似して供花やお線香を供え、手を合 わせたわけです。ご遺骨を火葬場に置いてくる、ということは、自らその伝統を断ち 切る、ということを意味します。それが本当にお子さんお孫さんのためになるのか、 一時的な判断で墓参の負荷をカットすることと引き換えに、もっと大事なものを失ってしまうのではないか、と思わずにいられません。

 どうしてもということでしたら、せめて一部は小さな容器に入れ持ち帰って手元供 養する、などの方法を検討していただきたいと、個人的には思います。


(宗教法人アカウンタント養成講座 講師 高橋 泰源)