宗教アカウンタント通信No.105〇棚経と月参り〇棚経と月参り 先月は8月。月遅れ盆の時期でした。 地域にもよりますがお盆は基本的に7月もしくは8月の13日から16日を指し、この時期 に先祖様が実家にお帰りになり、くつろいでまた浄土に戻っていかれます。 そして、僧侶はこの時期、お檀家さんのご自宅に伺ってお仏壇や精霊棚の前でご読経 を行います。と言っても、すべてのお檀家さんの家に伺うことは物理的に困難です。お 檀家さんの何割くらいのお宅にお邪魔するかはこれもまた宗派・寺院の考え方等によっ てまちまちなのですが、拙寺の場合は、毎年お邪魔している古くからの檀家さんが15 軒程度あります。これらのお宅に伺うことを「棚経(たなぎょう」と言います。それに 加えて、前年のお盆以降に四十九日を迎えた(つまり成仏された)故人様がおられる檀 家さんのお宅にも基本的には伺うことにしております。こちらはいわゆる「新盆供養」 です。 そして、これらのお盆のご供養とは別に、「月参り」という行事もあります。こちら は、毎月、檀信徒さんのご先祖様の命日に(例えばお命日が9月15日なら毎月15日) お宅に伺ってご読経をする、というもので、お布施として3000円から5000円く らいをいただくことが多いです。特にお檀家さんを持たない信者寺さんなどにとっては 、この月参りが収入の大きな基盤であり、同時に最も時間をかけるご供養であることも 多いです。 ちなみに拙寺では月参りの慣習はありませんので筆者も基本的には行っておりません。 ところが、これらの「お檀家さんの家に伺う」という行為が近年、全国的に変容しつ つあるようです。 具体的には ・「棚経や月参りを打ち切りたい(家に来るのをやめてほしい)」という希望が檀信徒 さんから出されることが増えてきた という事象です。 申し入れの理由としては、 ・親が旅立つなど、代替わりを機に、菩提寺との関係を「希薄化」の方向で見直したい ・冠婚葬祭を含めたあらゆる交際費を見直したい といったところが最大公約数であろうと思います。 檀信徒さんと寺・住職の関係性はきわめて独特なもので、ほかの何かに例えられるもの ではないのですが、寺に来ていただくにしろ、お宅に伺うにしろ、定期的な交流の場は 我々住職にとっては何よりも貴重な布教・教化の場です。それが減る、しかもそれを檀 信徒さんの側から持ち掛けられる、これは大変にショッキングな事実です。 もちろん「けしからん」などと申し上げる気持ちは毛頭ありません。これはとりもなお さず檀信徒さんが「あの住職と話をしても得るものが少ない」と判断された結果であり、 反省すべき点が大きいです。実際に私の寺でも「棚経は今年限りとしたい」というお申 し出があり、もちろんお受けしましたが、檀信徒さんおひとりおひとりに対する向き合 い方がおざなりになっていなかったか、考えさせられました。 実際に棚経を行うのはお盆の時期の8月14日、15日ですので一年で最も忙しい日で あり、伺ってすぐご読経、お茶を一杯いただき、5分ほどお話したらお暇して次の檀家 さんの家へ、という流れが「作業」に近くなってしまうことも正直ありました。「長居 してもかえってご迷惑であろう」という気持ちもあったことも事実ですが、時間の問題 ではなく、お邪魔している時間の中でしっかりとお檀家さんと向き合わねばならない、 そんな思いを新たにした今年のお盆でした。 (宗教法人アカウンタント養成講座 講師 高橋 泰源)
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