宗教アカウンタント通信No.119


〇居宅内設置型小型墓石


〇居宅内設置型小型墓石

最近墓石業界で話題になり、しばしばメディアにも取り上げられるようになったのが、 「たくぼ(宅墓)」と呼ばれる、居宅内設置型の墓石です。直径6センチほどの小さな骨壺に ご遺骨の一部を入れて、立方体の形をした小さな石の容器にそれを収納し、ご自宅に置き、 毎日手を合わせて供養する、そういったイメージの「お墓」です。 価格は1体用で約7万円、2体用で約14万円。 滋賀県の石材店が開発し、毎月コンスタントに売れているそうです。 筆者がこの商品を知ってまず疑問に思ったのは、「家に墓石を置いて床が抜けないのか」ということでした。 よく調べてみると、幅や奥行きは約30センチ、重量も1体タイプで約10キロ、 2体タイプで約20キロと、特段圧迫感のあるサイズでもないことがわかりました。

そうなると感覚的には「手元供養の新たなかたち」と捉えることもできると思います。 手元供養というのは、小さな容器やペンダントのような容れ物にお骨のごくごく一部を納め、 それを家に置いておいて毎日ご供養する方法です。 「その小さな容器をお墓の代わりにする」というわけではなく、お墓はお墓で用意し、 そちらにご遺骨の大部分を納めたうえで、残りのご遺骨を居宅におき、家庭において故人を 常に供養するというわけです。

ただ、今回の「たくぼ」は「墓」です。そこに「墓」があるのなら、別の場所に「墓」は 要らないことになります。 ご存じの方もおられると思いますが、特に西日本においては「ご遺骨のすべてを収骨する (お骨壺に納める)必要はない」という文化が広範囲にわたり定着しています。 関西圏のお骨壺のサイズは小さい、という事実もそれを裏付けています。 この文化を踏襲すれば、ご遺骨の大部分は散骨するなり無縁墓地に撒いてしまうなりして、 残りをこの「たくぼ」に入れて供養する、という方法も考えられます。 なにより、墓所購入のコストが大幅に軽減され、わざわざお墓参りに行く必要もない。 昨今のコロナ禍などにより我々の暮らしが5年、10年先にどのようになっているかが見えない中、 人々がより合理的なライフスタイルを志向する上で、「家の中にお墓を置く」という流れが 加速する可能性もあります。墓参に要する時間やコストを「手間」あるいは「負担」と 捉えてしまうことに個人的には疑問もありますが、このご時世、「まずご自身が生きていくこと」が 優先されるのは、やむを得ないことではあります。

あとは「家の中のお墓」というややトリッキーな存在をご家族が気持ち的にどの程度受け入れられるか、 という問題もあります。ですが、若くして旅立たれた方をお近い方がご供養する、などの場合には、 十分選択肢として考えられるのではないかとも思います。 宗教法人にとっては、お墓を取る方が減る→檀家さんが減る→減収、という流れが考えられ、 経営的にはマイナス要因ではあります。加えて、「ご自宅でのご供養」は、 「お寺と一般生活者の距離を一層遠ざけるのでは」という予測もできます。 いずれにせよ、今後の動向に注目したいと思います。


(宗教法人アカウンタント養成講座 講師 高橋 泰源)