宗教法人アカウンタント通信No.144〇蒼蠅驥尾に附して万里を渡り〇蒼蠅驥尾に附して万里を渡り そうよう、きびにふしてばんりをわたり。日蓮宗の開祖、日蓮が1260年に著した『立正安国論』に記されている言葉です。 蒼蠅とは青いはえ。驥尾とは1日に千里を走る駿馬の尾のことです。小さな虫でも良馬の尻尾につかまっていれば、とてつもない距離を進むことができます。つまりどんな人でも、進むべき道を示してくれる師匠が立派なら、自ずとその域に近づける、ということです。 時、折しも、サッカーワールドカップ・カタール大会がたけなわです。本稿執筆時にはまだ決勝トーナメントの結果は出ておりませんが、予選リーグで強豪国を相手に一位通過するなど晴れの舞台で結果を出している日本代表の各選手のサイドストーリーが、さまざまなメディアで報道されています。 筆者が特に注目しているのがディフェンダーの冨安健洋選手です。右足に故障を抱えながらも体を張った目一杯のプレーで、予選リーグでもドイツ、スペインのストライカーにほとんど仕事をさせませんでした。彼は福岡県で育ちましたが少年時代から特に足の速さで群を抜いており、スペインのプロチーム、FCバルセロナが福岡に置いているバルセロナスクール福岡校のコーチが小学校六年生の彼をFCバルセロナに推薦したという逸話まで残っています。 結局彼は福岡の高校在学中にJリーグのアビスパ福岡のトップチームに昇格。その後ベルギーやイタリアのプロチームを経て現在は英国の名門、アーセナルに籍を置いています。 その彼が今年6月に一時帰国した際、アビスパの下部組織でサッカーを学ぶ15歳と16歳の選手を対象に3日間、特別指導を行ないました。もともと物静かなタイプだった彼ですが、「アーセナルに来て、アルテタ監督と出会って、本当に色々なことを学べました。これが『現代サッカーの最先端で、世界のスタンダード』なのかと日々の練習からも実感しています。でも、僕が引退する10年後や20年後に、アーセナルで学んできたことを伝えようとしても、そのときには時代遅れの理論になっているかもしれない。だからこそ、今、若い選手たちに伝えたいんです」とスタッフに熱っぽく語って、特別指導を実現させたそうです。 彼はアビスパに恩義を感じ、だからこそアーセナルで今、名将と呼ばれる監督から学んでいることを日本の若者に伝えたいと強く感じた。まさに彼が、よい師に巡り合うことの大切さを誰よりも理解し、そのめぐり逢いによって学んだことを自分の中だけで収めるのではなく、下の世代にきちんと継承していく。まさにアスリートの、いや人間の鏡と言ってもいいのではないでしょうか。 もちろん、彼は「蒼蠅」などではなく、体格や運動神経に恵まれた存在であったこともまだ事実です。しかしながら、メンタルトレーニングを含めた不断の努力、プラス「よき師との巡り合い」によって世界有数のディフェンダーの地位を獲得したことも間違いないでしょう。 我々「蒼蠅」も、日々できることを積み重ね、師と呼べる人との出会いを大事にして、少しでも社会に貢献できるよう心掛けていきたいものです。 皆様、よいお年をお迎えください。2023年、令和5年が、平穏に満ちた年でありますように。世界中から戦火が消えますように。(宗教法人アカウンタント養成講座 講師 高橋 泰源)
|