宗教法人アカウンタント通信No.157


〇災禍と寺院


〇災禍と寺院

謹んで新年のご挨拶を申し上げます。本年も本メールマガジンをご愛読いただきますよう、よろしくお願いいたします。

元日から能登半島で大きな地震があり、現地の皆様は新年早々不自由な生活を強いられていることと存じます。亡くなった方のご冥福をお祈り申し上げるととともに、災害に遭われた方にお見舞い申し上げます。

以前も申し上げたことがあるのですが、2021年の12月に、全日本仏教会と大和証券の共同調査による「仏教に関する実態把握調査(2021年度)報告書〜お寺のSDGs 「社会貢献活動」と「DX」 等〜」が発表されています。その中で、さて、「お寺で取り組むべき社会貢献活動」として、「伝統文化・芸術の保存」と並んで、「災害時の避難場所(の提供)」は、「菩提寺がある方」で63.7%、「菩提寺にない方」で58.3%の方が、「取り組むべき」と答えています。

ご自身の宗教的な色彩とは関係なく、「大きなスペースがあるのだから万一の際には提供して欲しい」という切実かつ真摯な思いが窺えます。今回の地震に際しても、珠洲市の寺院には周辺の人々が避難しているという情報も伝えられています。

それと同時に、寺院自体の損傷に関しても大きな被害が報道されています。志賀町の寺院では「寺の隣を流れている川が逆流しているように見え、寺の外壁や瓦、仏具などは激しい揺れで落ち、車庫は柱ごと傾いている」、また富山県高岡市の寺院では「山門近くの灯籠や石廟付近の墓石が倒れたほか、国宝に指定されている法堂の外壁の部材が落下した」という報道がされています。また昨年の7月、九州地方を中心に発生した豪雨災害で、熊本県益城町の寺院では、本堂裏の山が土砂崩れし、本堂が全壊するという、痛ましい被害が発生しました。

寺院、特に本堂は築年が古く、耐震構造も十分でないため、災害には脆い面があります。交通の便の悪いところに立地している寺院も多く、災害時にはまず自身の身や本堂、お檀家さんのご遺骨をお預かりしている墓地の安全と保全を確保しなければならない立場になることもしばしばです。と同時に、地域の住民の皆様の信仰のよりどころととして数百年も存続してきた経緯、また近年の調査によっても、寺社は集落の中で比較的標高が高く、沿岸部においては津波の被害を受けにくい立地にある一面もあると報告されています。

ある程度の大きさを持った本堂や客殿(大広間)は、非常時に近隣の皆様の避難場所として想定されることは充分に考えられます。緊急時には行政から示されているハザードマップに従って避難していただくことが大前提ですが、日頃より近隣の寺院の場所を確認しておくことも十分意義のある行動であると、個人的には考えます。

我々の日常は大災害と背中合わせである、という事実を常に頭に置き、慎重に日々を過ごしていきましょう。


(宗教法人アカウンタント養成講座 講師 高橋 泰源)