宗教法人アカウンタント通信No.161


〇「空海 KUKAI ― 密教のルーツとマンダラ世界」


〇「空海 KUKAI ― 密教のルーツとマンダラ世界」

先日、奈良国立博物館の「空海 KUKAI ― 密教のルーツとマンダラ世界」に行ってまいりました。 密教の深淵なる歴史とエナジーを全身で浴びてきました。そしてこの脈々たる歴史を刻んできた密教の末端に僧侶として自分が置かれている事実に改めて身震いしました。

ご存じの方も多いと思いますが、極めて簡単に申し上げると、マンダラとは「密教の教えを図に示したもの」です。

胎蔵界は「大日経」という経典の中で説かれた「大日如来の理性」を表し、母胎に例えられ、大日如来の菩提心が蓮華状に広がり育む様子が描かれています。金剛界は、「金剛頂経」という経典の中で説かれた大日如来の智慧(ちえ)を表し、あらゆる煩悩を打ち破るダイヤモンド)のような力を持っているとされます。これらの二つの経典は、インドから中国への流伝ルートも伝持者も異なるのですが、弘法大師の師として知られる唐の長安にある青龍寺の恵果阿闍梨によって一対のものと見なされた、というのが定説です。

そして、胎蔵曼荼羅と金剛界曼荼羅を一対のものとして弘法大師に伝えたので、これらを両界(部)曼荼羅と一括して呼ぶ事となりました。

マンダラにはさまざま種類がありますが、一般的に真言宗において最高位の仏とされる「大日如来」を中心に膨大な数の仏が描かれており、その教えも簡単に説明できるようなレベルのものではありません。それでも今回展示されていた以下の3体はそれぞれ凄まじい威容を備え、見る者を圧倒するオーラを放っていました。

 

・血曼荼羅(金剛峯寺所蔵。平清盛が自らの頭部の血を画具に混ぜて大日如来の宝冠部に塗ったと言われています)

・高雄曼荼羅(弘法大師がプロデュースした曼荼羅で、唯一現存するもの。高雄神護寺所蔵。昨年230年ぶりの修復が行われました)

・両界曼荼羅(西院曼荼羅)(現存最古の彩色両界曼荼羅と言われる。日本の仏画とは違う造形感覚が印象的で、唐での制作と考える見方もあります。東寺蔵)

 

もちろんマンダラだけにとどまらず、風信帖(皇后大師から最澄に当てられた親書)、御請来目録(大師が唐から請来した新旧訳経、梵字真言、論疏章、曼荼羅、道具などの目録)など歴史的価値のある品々がこれでもかとばかりに展示され、その場を立ち去るのが惜しまれるほどでした。

さらに特筆すべきは、今回会場の展示、また会場で配られていた「鑑賞ワークシート」が、小学校高学年の児童でも理解できるようきわめて平易に書かれていたことです。ワークシートはNHK奈良放送局の制作、奈良国立博物館の監修によるものですが、「めっちゃ魅力的やろ」「ええ質問や」など、関西弁を駆使した表記でさらに親しみやすさを増幅していました。

密教は浄土系や禅宗の仏教と異なり、積極的に民衆に分け入って「とりあえず念仏を唱えましょう」と説くようなシンプルな教えでもないため、とっつきにくい印象を持たれがちです。マンダラについても「わかりやすく説明すること」には正直限界もありますが、今回は十分にハードルを下げ、児童から仏教に造詣の深い層まで、幅広く満足できる展示になっていたと感じました。

会期は6月9日まで。今回の展示は東京国立博物館には巡回しませんので、皆様ぜひ奈良に行って、その眼で真言密教の奥義をご覧になってください。


(宗教法人アカウンタント養成講座 講師 高橋 泰源)