宗教法人アカウンタント通信No.163


〇第二の人生プロジェクト


〇第二の人生プロジェクト

禅宗の宗派として知られる臨済宗妙心寺派には、「第二の人生プロジェクト」 と呼ばれる制度があります。 以下のような案内文がWebサイトに掲げられています。

『僧侶になって世の為・人の為に活動しませんか? 昨今の社会状況は、混迷を深め、世情不安は益々高まり、心の荒廃が心配さ れております。このような時代にこそ、「仏教の心」「禅の精神」が強く求 められております。 妙心寺派ではビジネスマン時代の貴重な経験を持っておられる「あなた」の 出家を支援します。 第二の人生を「心の指南役」として、世の為・人の為に活かしてください。 それが又、皆様の人生の答えにも繋がるのではないかと考えております。』

つまり、勤め人などの経験を持ち、定年その他の理由でそちらの仕事が一段落 した方に対して、「この後はお坊さんになって、社会に奉仕してみませんか」 と提案しているわけです。老齢年金の受給により収入面の安定がある程度見込 まれているシニアの皆さんに僧侶の資格を取っていただき、過疎化などで経営 が安泰でない寺院の僧侶になってもらって檀信徒さんに接していただき寺院を 救ってほしい、そんな宗派の考えがうかがえます。

もちろん僧侶資格は簡単に取得できるものではなく、研修、修行、垂示式 (すいじしき、人々に教えを説く儀式のこと)など、さまざまなカリキュラム を消化することが大前提となります。

週刊朝日(現在は廃刊)2022年9月9日号によれば、この制度は2013年 に開始されました。全国に約3300ある妙心寺派の寺院のおよそ3割が、 後継者不足や地方の過疎化で住職不在に陥っているそうです。 この危機を打開するために、「人生経験も豊富なシニア層に僧侶になってもらう」 というアイディアを実行しているわけです。

筆者はこの宗派の僧侶ではないのですが、自分の宗派でも、年齢がある程度 行ってから僧侶の資格を取ることにした、という方をしばしば見かけます。 その多くは、「結婚相手が寺の娘さんで、当初は寺を継ぐ気はなかったが、 義理の父、つまり現住職の高齢化に伴い後継者となる決意を固めた」という ケースです。 そのような方たちは、若者と同じ立場で本山に入り、早朝から清掃や読経、 修行などを行います。その中でどうしても体力面の問題から、同じカリキュラ ムを消化するのに若者より時間がかかってしまう傾向にあります。反面、仏教 思想の理解や他宗教との差異などを学ぶ、いわゆる座学においては理解力に 優れ、若者にレクチャーしている姿も見られます。

結局、宗派にとって、あるいは仏教界全体にとって最も大事なことは 「人々のお墓を守り、心の支え、よりどころとしても機能するよう、お寺を 存続させること」であり、強い意志と高い意識を持って修行に励み、 僧侶となってくれるのであれば年齢や性別は問わない、という結論になるかと 思います。上述した妙心寺派の試みも、「過疎地域の寺院に赴いた 『シニア住職』がいかに地域や檀信徒と融和し、寺院運営に貢献していくか」 の結果が出るのがこれからでないかと思います。 一僧侶として、彼らの進む道を応援したいと思います。


(宗教法人アカウンタント養成講座 講師 高橋 泰源)