宗教法人アカウンタント通信No.164


〇僧侶と猛暑


〇僧侶と猛暑

「今年の夏は暑い」と、毎年言われている気がします。日中の気温が40度を超える日も珍しくなくなるなど、データを提示されると、余計に暑さを感じてしまいます。

それに伴い近年、従来にも増して執務中にも入念な暑さ対策が求められている、という点においては僧侶も例外ではありません。

特に8月の13日から16日の、いわゆる「月遅れ盆」の時期は、多くの僧侶が「棚経(たなぎょう)」と呼ばれる檀家さん回りを行います。自家用車、スクーター、徒歩など移動手段は多様ですが、いずれにせよ入念に暑さ対策を行わないと、檀信徒さんの家で熱中症で倒れるなどという事態を招く可能性もあり、ご迷惑をおかけしてもいけないので、最近流行りの携帯型扇風機やネッククーラーなどの装備を持参する僧侶もおります。

もうひとつ、施餓鬼(せがき)と呼ばれる、「同宗派の近隣の僧侶にも出仕していただき、大勢の檀信徒さんとともに、ご自身のみならず有縁無縁のあらゆる精霊を供養する法要」も伝統的に真夏に行われることが多い行事です。こちらはお寺の本堂で40分から50分程度の法要となることが多いのですが、「本堂におけるエアコンの使用の妥当性」という問題があります。

従来より、「そもそも本堂は修行の場、特に密教においては印を結び真言を唱え護摩を焚き、内なる自分との対話を行う場所である、したがって人為的な温度調整などもってのほか」という考え方が優勢だったのですが、近年は「息苦しくなるほどの暑さの中で身の危険すら感じる状況であれば、エアコンに関しても柔軟に考えたほうがよいのでは」という意見も多くなりました。

筆者の寺でも十年ほど前に世話人さんにエアコンをご寄付いただき、法要や施餓鬼の際には使用しております。自身のためもありますが、同時に来寺いただく檀信徒さんへの配慮、体調不良を招かぬように、という主旨です。

そんな中、7月下旬に所用で成田山新勝寺に行ってまいりました。諸堂を参拝した後、午前11時からの大本堂におけるお護摩に参加させていただきました。

築50年超の、名刹のお堂としては比較的新しい建物ではありますが、当然のことながらエアコンなどは設置されておらず、当日も猛烈な暑さだったのですが、お護摩が始まると御導師様の所作の美しさ、そして立ち上る炎の強さ、爆ぜる護摩木の音に圧倒され、暑さなどを感じる余裕もありませんでした。筆者以外の一般参加者も、暑そうな顔をしている人は居ませんでした。

ひとことで言えば、「古来より伝わる密教独自の修法には、エアコンなどによる人為的な温度調節は不要、むしろ余計である」という確信を得ました。

酷暑や炎暑が当たり前の夏になっておりますが、体調管理を十分に行ったうえで、少なくとも修行道場や護摩堂などの仏教施設においては、できるだけ古来に近い環境で修法に励むのがまっとうな姿でないか、そのような思いを感じました。


(宗教法人アカウンタント養成講座 講師 高橋 泰源)