宗教アカウンタント通信No.56
○地方寺院振興に向けてのある取り組み
○地方寺院振興に向けてのある取り組み
先日、中部地方のある都市(県庁所在地です)で真宗系の寺の住職をされてい
る40歳の知人、Tさんと話をする機会がありました。地方寺院の苦悩、そして
それを打ち破るべく彼が取り組んでいる寺院活性化の取り組みについて、いろ
いろ話を聞くことができましたので、税理士先生の参考になればと思い、まと
めておきます。
Tさんのお寺は最寄駅からバスで50分ほど行った農村地帯にあります。檀家
数はおよそ20件。正直、とても専業で黒字経営できる数ではなく、彼は平素、
地元の地方自治体の職員をしています。お父さんもご健在ですが、そちらは自
営業をされており、寺の敷地内に住んで檀務や法事を執り行い、寺を守ってき
たとはいうものの正式には住職という肩書は持っておらず、Tさんが40歳に
して住職を務めています。
そんなTさんですが、寺院の活性化に向けて積極的に取り組んでいます。具体
的には毎月第3日曜日に「寺カフェ」と称して檀家さんや近隣の人向けのイベ
ントを開催し、お茶を飲んで語り合ったり、落語や音楽など娯楽や芸術を味わ
ったり、ご縁を育む異業種交流会を行ったり、皆で仏具を磨くことによって仏
心の一端に触れたり。これらを通して、敷居の低いお寺、気軽に足を踏み入れ
られるお寺を志向しています。また老朽化が激しい境内内の設備については極
力業者の力を借りず、自力で修繕を行っています。
Tさんはとにかく勉強熱心で、平素は自治体で働いておられるにもかかわらず
週末などを利用して東京や仙台で開かれている超宗派の勉強会に精力的に参加
されており、そこで学んだノウハウを自身の寺院の振興につなげるべく、日々
思いを巡らせ、驚異的なスピードでさまざまな改革を実現しています。一時は
やや薄くなっていた寺と檀家さん、寺と近隣住民の関係も次第に濃密さを取り
戻し、地域のコミュニティスペースとしての役割も果たしつつあります。また
寺院経営という観点からは永代供養墓の造成・販売も視野に入れており、近隣
の住宅地に住む団塊の世代にターゲットを絞り、マーケティングの戦略を練っ
ています。
「宗教者としての活動」と「宗教法人の経営」とを両立させることは至難の業
であり、まず前者への取り組みを開始したTさんの改革も端緒についたばかり
です。しかしながら、このデジタルコミュニケーション全盛の時代であるから
こそ、住が自ら周りの方とフェイスtoフェイスで触れ合っていくことが、実は
寺院興隆、宗教法人の安定経営に向けての近道であると言えるのではないでし
ょうか。
Tさんのチャレンジをこれからも応援していきたいと思います。
○今月の一言
「本尊は掛けやぶれ、聖教はよみやぶれ」(蓮如上人御一代記聞書)
本尊は破れるくらいに何度も何度もかけ、経本も破れるくらいに何度も何度も
読みなさい。ありがたき教えは、大事にしまっておくことなく、毎日毎晩、眺
め、読み、実践しなさい、という蓮如のシンプルな教えです。膨大な情報の海
を泳ぎながら日々を生きている我々は、大事にしたい思想や言葉に出会っても
それを書きとめることをせず、しばらくしてから断片的な記憶を手掛かりにネ
ットで検索する、という行動パターンに陥っているのではないでしょうか。ま
ずは「大事なことは自分の手で記録する」、そして「折に触れ目にし口にし、
関連の書籍を読み込むなどして理解を深める」この繰り返しこそが、人として
成長し、悟りを開くステップにつながるのではないかと考えます。
(宗教法人アカウンタント養成講座 講師 高橋 泰源)
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