宗教アカウンタント通信No.58
○戦後70年、そして安保法制に関する宗教者の立ち位置に思う(2)
○戦後70年、そして安保法制に関する宗教者の立ち位置に思う(2)
法案が参議院でも可決し、日本の安全保障政策は新たな段階に入りました。先月に引き
続きこの問題を考えます。言うまでもなく、以下は筆者の個人的な見解です。
安倍首相は祖父の岸信介元首相が決断した安保改定がのちに評価されたことを挙げて、
今回の法整備もいずれ理解されると強調する。岸氏は退陣に追い込まれ、「寛容と忍
耐」の池田勇人内閣の経済重視路線のもとで安保体制が幅広い支持を得るようになった
という側面を見落としてはならない。安保改定に反対した人々が本当に反対していたの
は安保でなく、岸氏の政治姿勢にあったのだとすれば、安倍内閣も同じ道をたどらない
とも限らない。
9月18日付け日本経済新聞の社説(抜粋)です。比較的同意します。要するに「問題は
(法案の内容よりも)政治姿勢」。さらに正確に言わせていただくなら、「誠実さ」。
11本の法案を丹念に読み込む時間や能力は筆者にはありませんし、メディアによる要約
を参考にするにしても、ここまで各メディアの色がついてくると全面的に信頼するわけ
にもいきませんので、内容の是非に関するコメントは保留し、合憲性に関しては専門家
である憲法学者の方々の行動と司法の判断を見守りたいと思います。
ただ、今回は法案そのものより、その旗振り役である首相や政府・与党の強引に思える
手法や何度も変わる法案の具体的な説明が社会に不安を巻き起こし、各所での大規模な
デモや「今国会での採決」に対するネガティブな反応を生んだのでは。たとえば徴兵制
への展開など普通に考えればあり得ませんが、今回の進め方を見ていると、憲法18条
(何人もその意に反する苦役に服させられない)を解釈改憲で乗り切るという奇策すら、
まったくもって絵空事だと笑い飛ばすことはできないと思わされます。
華厳経というお経の中に、十善戒(十のよき戒め)が記されています
不殺生(ふせっしょう)むやみに生き物を傷つけない
不偸盗(ふちゅうとう)ものを盗まない
不邪婬(ふじゃいん)男女の道を乱さない
不妄語(ふもうご)うそをつかない
不綺語(ふきご)無意味なおしゃべりをしない
不悪口(ふあっく)乱暴なことばを使わない
不両舌(ふりょうぜつ)筋の通らないことを言わない
不慳貪(ふけんどん)欲深いことをしない
不瞋恚(ふしんに)耐え忍んで怒らない
不邪見(ふじゃけん)まちがった考え方をしない
(真言宗智山派 智積院HPより)
これらに共通する思想は「誠実に生きなさい」ということではないかと思います。特に人に
対して、あるいはすべての生きとし生けるものに対して、愛情と慈しみをもって接し、
心を尽くす。
我々ももちろんですが、行政に携わる方におかれましては特に、この戒め、特に不妄語、
不両舌、不邪見などの戒めを胸に留めていただき、とにかく誠実に、心をこめて国民に
向かい合っていただき、包み隠さずに、自らが志向している方向性についてお話しいた
だきたい、そのうえで国民に支持を仰いでほしい、そう願わずにいられません。
(宗教法人アカウンタント養成講座 講師 高橋 泰源)
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