宗教アカウンタント通信No.59
○お坊さんブーム?
○お坊さんブーム?
「5→9(5時から9時まで)〜私に恋したお坊さん〜」(フジテレビ系)、
「仮面ライダーゴースト」(テレビ朝日系)。今秋スタートした2本の連続ド
ラマで、奇しくも僧職にある者が主役もしくは準主役となっています。そして
10月24日からは、高野山真言宗の住職のエッセイを原作とする劇場用映画
『ボクは坊さん。』が封切られました。『ぶっちゃけ寺』(テレビ朝日系)に
端を発した「僧侶のメディア露出」が、いよいよエンターテイメントにも波及
してきたかのようで、社会において長年地道にこの職務を担当してきた人間か
らすると、なにやら面はゆい気持ちです。
「仮面ライダーゴースト」は未見ですが、5→9は相当に規模の大きい寺院
の跡取りである高学歴イケメンエリート僧侶が嫁を探す話で、なにやら時代錯
誤感をぬぐえないのですが、原作の漫画が2010年連載開始とのことですし、
そもそもノンフィクションでもドキュメンタリーでもないわけですから、その
辺は割り切って見ればいいというものでしょう。1話では山下智久さん演じる
イケメン僧侶が直衣の上に金の袈裟を着用したまま高級料亭でカニを食べよう
とする場面があり、思わず「(袈裟を)汚すな!」と声を出してしまいました。
言うまでもなく直衣や袈裟は引導を渡す際の正装であり、そのままで食事をす
ることなど、(少なくとも私の宗派では)ありえません。また3話では僧侶が
経本を見ながら般若心経をたどたどしく読誦する場面があり、正直違和感を抱
きました。とはいうものの、フジテレビが幾多の名作ドラマを世に送り出して
来た月曜9時枠ですし、娯楽作品として肩肘を張らずに楽しめればと思います。
映画「ボクは坊さん。」に関しては原作を読んでおり、エッセイの筆者の人
生の激動ぶりが我々のような同業者にとってはなかなか身につまされて面白く
読めるのですが、一般の方にとって興味を持っていただけるのだろうかという
素朴な疑問があります。ただ、職業ドラマ全盛のご時世において、単に「毛色
の変わったひとつの職業にスポットを当ててみた」という部分もあるでしょう
し、yahoo映画などのレビューを見ると、実話ベースの作品らしく丹念に
作られており、人の生と死を真摯に描いていて静かに感動できる、というコメ
ントも多いので、筆者もいくばくかの期待を持って映画館に足を運ぼうと思い
ます。
さて、フィクション・ノンフィクションを問わず、これらの「仏教や僧侶を
描いた作品」がお茶の間と極めて近いところに露出することは、結果、宗教者
と一般生活者との距離を多少なりとも縮めると思います。この望ましい距離感
については各宗派によってさまざまであり、筆者の所属する密教系の宗派は浄
土真宗や禅宗系と異なり、必ずしも積極的に世俗に分け入って行って教義を解
説し信者さんを獲得しようというスタンスはとっていません。とはいえ、高野
山の諸仏や美術品に代表される「密教的テイスト」が国内外の人々を引き付け
ているのもまた事実であり、「密教なのですべて秘密です」で済ませては申し
訳ないので、できるだけ丁寧に開祖の思想をお伝えし、加えて阿字観(あじか
ん)など宗派独自の瞑想法なども体験していただく。そんな真摯な試みを続け
て、仏教やわが宗派に親しみをもっていただけるよう努力したい、そんな気持
ちを持っています。
○今月の一言
「これあるが故に彼あり。これ起こるがゆえに彼起こる」(阿含経)
他のものの力を受けて、自分は生きている。いわゆる「おかげさま」の発想
です。そしてあらゆるものには原因(因)があり、条件(縁)が揃って結果(果)
を呼ぶ。植物にたとえるなら種が因、養分や水が縁、花や果実が果に該当しま
す。当たり前のことのようですが、「よい種を撒くだけでは花は咲かない、周
囲の協力や時の運、追い風となる環境など、さまざまな条件が揃って初めて実
を結ぶのだ」と考えると、ビジネスや対人関係を円滑に進める上での基本を改
めて教えてくれているよう気がします。
(宗教法人アカウンタント養成講座 講師 高橋 泰源)
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