宗教アカウンタント通信No.64

○住職の副業、その功罪を考える


○住職の副業、その功罪を考える

筆者は真言宗の寺院の住職を務めるかたわら、FP業務を中心に行う個人事業主 として、ある会社から原稿執筆業務を請け負い、その他スポットでセミナー講 師や執筆の仕事をしております。3年ほど前までは会社員として同じような仕 事をしておりました。なぜ住職のほかに仕事をしているかと言えば、理由は明 快で、「宗教法人から支給される給料だけでは食べていけないから」です。 筆者の寺は埼玉県南部に所在し、檀家数は約250軒ほどです。ご葬儀は年間 に10件程度、ご法事は月5件程度です。この程度の規模ですと、給与として 宗教法人から支給される金額は年間400万円程度がギリギリで、それ以上の 支給を受けると、宗教法人の財産が目減りしていってしまいます。

 

では、一般的に住職が副業を持つメリットとは、なんでしょうか。 1.経済的にゆとりが生まれる。 拙寺がご葬儀やご法事のお布施について個別のご事情に柔軟に対応できるのは、 上述の通り、「副業で生計を立てているので、宗教法人から支給される給与が 多少少なくても生活には支障ない」からにほかなりません。

 

2.人生経験が豊かになる。 お通夜での法話の際、あるいは個別の相談ごとを受ける際に、住職以外の職業 を経験しているのといないのでは、答えの説得力や深みが違ってくるように思 います。

 

3.宗教法人経営のノウハウが身に付く。 副業の種類にもよりますが、収入、経費、所得、税金などの基本から、区分経 理、公益法人等のみなし寄附金、固定資産税や利子・配当の非課税などの宗教 法人特有の税務・会計の特徴まで、法人の役員として知っておかねばならない ことの理解がスムーズに進みます。

 

一方デメリットですが 1.ご葬儀やご法事の日程が制限される。 どうしても抜けられない仕事があると、その日のご葬儀を希望されても応じら れない場合があります。専業でも本山研修とか被災地訪問とかで同様の状況は 発生しないわけではないのですが、副業があるとその件数は格段に増えます。

 

2.宗教者的な色彩が客観的に薄く、俗人色が強くなる。 御通夜の日、昼間副業を務めた後、スーツ姿に大きなカバンを持って夕刻斎場 に入り、導師控室で僧衣に着替えてからご遺族に御挨拶する、ということがあ ります。パートタイム僧侶のようで、少し申し訳ない気持ちになります。もち ろん更衣と同時に気持ちはしっかり切り替えているのですが。

 

3.宗教や宗派の勉強をしたり、僧侶の階級を上げる研修に参加しにくい。 筆者の宗派ではお坊さんの位を僧都から僧正に上げ、紫の衣を着られるように なるために、本山で一定期間修行することが義務付けられています。別に僧都 のままでもいいのですが、それなりの年齢になると僧正になっていないのは多 少恥ずかしくあります。ところがそのための修行が、当然のことではあります が一定期間身体を拘束されるものなので、副業によっては事実上行くことが不 可能になります。筆者がまさに今その状況にあります。

 

ということで、副業を持っていることによるメリット、デメリットがある程度 おわかりいただけたと思います。皆様の菩提寺のご住職は専業なのか、副業あ りなのか、伺ってみるのも面白いかもしれません。ただ言うまでもなく重要な のは、副業の有無にかかわらず、ご法事やご葬儀をはじめとする寺院の仕事に 真摯に取り組み、檀信徒の方たちの悩みに真剣に向き合い、寄り添うこと、だ と思います。


(宗教法人アカウンタント養成講座 講師 高橋 泰源)