宗教アカウンタント通信No.66

○トピック 【無住の寺】


○無住の寺

朝日新聞の調査によれば、全国の70,000超の寺院のうち、住職が常駐し ていない寺が12,000ヵ寺にのぼるとのこと。寺は住職なり寺族(その家 族)が常に居て当然であるようにも思える場所です。筆者の寺の檀家さんも、 そのほとんどは予告なしで来寺されます。ところがこの国の寺のおよそ2割は、 住職が居ない寺、だという、ある意味ショッキングな事実が報道されました。 その多くは近隣の寺院の住職が住職を兼務している、いわゆる「兼務寺」です が、完全に住職が存在しない寺院も増えており、社会問題化しつつあります。 いま寺院に何が起きているのでしょうか。

そもそも寺院は、本尊となる仏像が安置されるスペースさえあればその体をな します。客殿(法事の前後に檀信徒が休む広間)や庫裏(住職・寺族の住居) は必ずしも必要とされません。ですので、物理的に人が寝泊りできない寺院も 多く存在します。こちらは一般的に墓所も少なく、檀信徒もそのような状態で あることを古くから認識していますので、毎日もしくは定期的に居宅から住職 が来寺する習慣になっていればさほど支障はありません。

問題は、後継住職の不在や、檀信徒・法事の減少による経営難により、近年無 住になることを余儀なくされた寺院の増加です。ご存知の通り寺院の住職は基 本的に世襲されることが多いのですが、少子化の影響により後継者が居ない、 あるいは居ても宗教法人から支給される給与では生活できないので継がせたく ない、などの事由により、住職不在の状態に陥ることがあります。

基本的に収益事業には非課税とはいうものの、宗教法人にも当然収入と支出が あり、恒常的に支出が上回れば法人の資産が目減りしていき、その状態が続け ば解散を余儀なくされる可能性があります。寺院には土地・建物の維持管理や 光熱水道費、盗難防止のためのセキュリティシステム、火災保険など葬儀・法 事の有無にかかわらず発生するコストがあります。他方、収入はきわめて流動 的で、葬儀、法事とも簡素化、減収の一途をたどっている昨今、地方の小規模 寺院の経営は苦しさを増す一方です。

しかしながら、寺院の解散や廃寺は、そこが菩提寺となっている檀家さんには 大問題です。暗黙のうちに永続性が担保されており、地域のシンボル的な存在 でもある寺院が姿を消す心理的な影響、そして墓所の管理や法事の催行等、物 理的な問題もあります。もちろん、寺院や宗派も手をこまぬいているわけでは ありません。当該地方から都市部に出てきている檀家さんを対象として都心で 行う「合同出張法要」、仏教に興味があるリタイア層を僧侶として育て、地方 寺院に住職として斡旋する取り組みなど、各宗派はそれぞれ試みを進めていま す。ひとつでも多くの寺の無住状態の解消、地方における寺院の活性化につな がればと願うものです。

さて、一方において、都市部では「寺が足りない」という状況も出現していま す。こちらは次号で詳しく取り上げます。


(宗教法人アカウンタント養成講座 講師 高橋 泰源)