宗教アカウンタント通信No.67

○寺が足りない


○寺が足りない

前号で申し上げた通り、地方において無住の寺院が増えているという話題をご紹介しました。その一方で、寺院経営の専門誌等において、主に都市部において寺院が不足している、という情報が取り上げられています。さて、何をもって「不足している」と定義しているのか。 専門誌によれば、一寺院の檀家数を千人、一般生活者のうち半分を「寺を求めている人」と仮定し、寺院の数と人口を比べて過不足を算出したところ、東京・埼玉・千葉・神奈川で約7800ヵ寺が不足している、という結果が出たそうです。二点ともかなり乱暴な仮定ではありますし、不足している分寺院を作れば多くの一般生活者がそこを菩提寺として選んで一件落着、という簡単な話でもありません。「都市部は他地域に比べて、人口に比べて寺院が少ない」というほどの理解にとどめておけば間違いないかと思います。

一方、現在の都市部における葬儀は、(1)直葬(無宗教葬)、(2)葬儀社や僧侶派遣サービス業者から僧侶が派遣されてくる葬儀、(3)菩提寺の住職が導師を務める葬儀がほぼ三分の一ずつの割合である、とも言われています。(1)(2)の形式で葬儀をされたご遺族が、「本来はきちんと菩提寺を探してお墓を取り、(3)の方式で住職に引導を渡してほしいが、近所に寺院がない、あるいはイメージにあう寺院が見つからないなどの理由でやむを得ず(1)(2)の形式で葬儀を行っている」という行動形態をとっているのだとすれば、「寺が足りない」という上述の専門誌の分析と合致することになります。

しかしながら、筆者も埼玉の寺院の住職ですが、実際のところ「菩提寺を見つけたいがなかなか見つからない」という話はほとんど聞きません。むしろ住職や寺院との付き合いを嫌って霊園や公営墓地を選ぶ方、あるいは寺院でも永代供養墓のほうを選択する(この場合菩提寺―檀家という関係は結ばれません)方が多い気がします。拙寺においても墓所の見学に見える方の9割が永代供養墓を選択されます。その理由は購入コストが最も大きいと思いますが、孫子の代まで延々と続く菩提寺―檀家という関係のわずらわしさを嫌気して、という理由もあるかもしれません。

ですから都市部における問題は、「寺が少ないこと」ではなく「寺墓地を選択される方が少ないこと」ではないかと、筆者は考えます。もちろんどのような墓所を選択するかは各人の自由ですが、本メールマガジンの主旨に照らして考えるならば、「いかに寺墓地の、あるいは寺の魅力を高めていくか」を考察しなければいけません。次号に続きま す。


(宗教法人アカウンタント養成講座 講師 高橋 泰源)