宗教アカウンタント通信No.70

○遠隔地にお住いの檀家さんのご葬儀と墓参の問題


○遠隔地にお住いの檀家さんのご葬儀と墓参の問題

拙寺は埼玉県南部にあるのですが、最近、千葉県北部、そして都下(あきる野市)の斎場において、ご葬儀の導師を務めました。千葉の檀家さんはかつて拙寺の近くにお住まいでその時代に墓所を購入されましたがその後転居された方で、都下の檀家さんは今回亡くなられた方(喪主様のお母さま)がかつて拙寺の近くに住まれていたので拙寺に墓所を購入されましたが、その後体調を崩されたため喪主様が都下の自宅の近くの施設に引き取られ、看護をされていた、という事情です。

いずれのケースも喪主様が「遠方ですみません」と恐縮されておられましたが、「遠方であろうと檀家さんのご不幸であれば菩提寺の住職が引導を渡すのは当然です」とお答えし、導師を務めました。むしろ問題になるのはその後の、檀家さんの墓参です。車でも電車でも自宅から片道2時間以上かかる場所に菩提寺があるとなると、頻繁にお墓参りに行く、というわけにはいかないのが正直なところだと思います。

その場合現実的な解決策として浮上するのが改葬、つまりお墓の引っ越しです。本メールマガジンでも何度か取り上げていますが、墓所からご先祖様のご遺骨を取り出し、新たに購入した別の墓所に再度埋葬、墓石は旧墓所に建てていたものを移動するか、もしくは廃棄して新たに作る、という手順を踏むことになります。 これは実は結構段取りが面倒で、役所に提出する改葬許可申請書に旧墓地の管理者の署名捺印が必要であったり、その際に安くはない離檀料を旧墓地の管理者から要求されることもあったりと、いろいろ煩雑かつ厄介です。 とはいいつつも、やはりお寺は住まいの近くにないとご先祖様に申し訳ない、近くにお墓を移したい、とお考えの方も多く、今回ご葬儀をしたうちのお一方も改葬、つまり拙寺からの離檀を検討されるとのご意向でした。ただ新しい墓所の選定、購入など手間もかかるので、とりあえず四十九日の法要は行い、問題が決着するまで拙寺の本堂にある納骨堂(ご遺骨の一時預かりスペース)でお預かりする案をご提案しました。一周忌をめどに墓所を決めていただくよう、お願いをしています。

もちろん、遠いといっても同じ南関東ですからお盆やお彼岸など、年に数回の日帰り墓参は十分に可能。それ以外の時期には自宅のお仏壇に線香をあげて手を合わせることでもご先祖様の供養はできる、という考え方もあるかもしれません。それはそれでひとつの見識ですし、何よりも、今まで培ってきたその檀家さんとの関係が引き続き維持できるというのは寺にとって何よりも喜ばしいことです。

このように、少子高齢化・ライフスタイルの多様化等の要因により、菩提寺あるいは墓所から距離が離れている場所にお住いの檀家さん、という事例は、今後ますます増えていくと思われます。30年、50年先には、ご遺骨の大部分を海洋散骨して一部のお骨のみを手元に置く、つまり墓参という行為が必要とされなくなるケースが一般的になっているかもしれません。ただ檀家さんのお墓やお骨をお預かりしている寺院の住職としては、お墓がいつまでも先祖供養のシンボルであり、せめてお盆とお彼岸くらいは家族でお墓参りする、という習慣がいつまでもこの国に残ってほしい、と願わずにはいられません。


(宗教法人アカウンタント養成講座 講師 高橋 泰源)