宗教アカウンタント通信No.74
○今こそ、仏教経済学○今こそ、仏教経済学 「とりあえず、今が楽しければそれでいいじゃないか」と言いたげなテレビ番組が多か ったように思える年末年始。その中で、ひときわ異彩を放っていたのがNHKBSの「欲望 の資本主義2017」でした。番組は米国の企業経営者が自らのビジネスの社会的意義を強調する一方、世界の経済学 者が「成長する経済」のあり方に異論を唱える、という構成でした。 特にチェコの経済学者、セドラチェクは ・現代の経済活動は経済の持続的な成長を前提に進んでいる。まるで晴れの日にしか使 えない船だけをひたすら作っているようなものだ。成長とは最高速度で車を走らせるよ うなもので、それは「大事なこと」ではあるが、「最も大事なこと」ではない。 ・文明社会は安定を犠牲にして、無理に成長を買っている。成長を求めすぎれば、日本 経済はやがて死を迎える。KAROUSI(過労死)という名の。 といった趣旨のことを述べていました。 また米国の経済学者、スティグリッツは「天然資源をじゃぶじゃぶ使って二酸化炭素を 排出する経済活動など持続不可能である」「GDP(国内総生産)は環境汚染や資源の乱 用を無視した指標である。成長の本質を踏まえた新たな指標を考えるべき」と語ってい ます。 以前に本メールマガジンでもご説明したことがあるのですが、仏教経済学(Buddhist E conomics)は、イギリスの経済学者、エルンスト・フリードリッヒ・シューマッハーに よって、1966年に提唱された経済学です。 イギリス政府の経済顧問だったシューマッ ハーは、1955年にビルマ(現在のミャンマー)政府に経済顧問として招かれて現地を訪 れた際、お釈迦様が唱えた「八正道(はっしょうどう、人生において必要な八つの戒 め)」に基づいて生活する現地の仏教徒、特に正命(道徳に反する職業をやめ、正当な なりわいによって生活を営む)を実践する彼らの姿に感銘を受け、仏教経済学を提唱し ました。一般の経済学が「適正規模の生産努力で消費を最大化する」ことを主眼とする のに対し、仏教経済学は「適正規模の消費で人間の満足度を最大化する」ことを生活・ 労働の目的とします。 つまり、大量生産・大量消費に走ることなく、作業や労働に喜 びを感じながら 身の丈にあった収入を得、贅沢をせず、質素に、それでいていきいき と暮らすようなイメージです。 セドラチェクはこうも語っています。「人は何を得なくても、他人の幸せを願い善行 を施す性を持っている。Have a good dayという挨拶言葉があるように。禅や仏教は現 代の資本主義が根ざしている他の宗教ほど攻撃的でないので、禅的思想は経済を統合で きるかもしれない。今後の経済のパラダイムシフトのカギになる可能性を持っている」 我々は経済活動、経済規模の拡大をあまりに優先しすぎているのではないかという思 いに、筆者は数年前からかられていました。我が国の宰相が提唱し続けている経済政策 も、この国にとっての適正な規模を模索することを忘れ、ひたすら成長を追っているよ うにも思えます。さらに世界の超大国ではビジネスマンが大統領に。そろそろ本気で、 両足に力を入れて立ち止まり、人の幸せとはどこから生まれてくるものか、何によって もたらされるものなのか、じっくり考えてみることが必要なのではないでしょうか。 (宗教法人アカウンタント養成講座 講師 高橋 泰源)
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