宗教アカウンタント通信No.81


○将来、社会から求められる僧侶・住職とは(3)


〇将来、社会から求められる僧侶・住職とは(3)

 8月号では、社会がいかに変容しようとも、「宗教的儀礼の専門家」、「ここ ろの相談の専門家」、この二つの資質の少なくともどちらか、できれば両方を兼 ね備えた僧侶、住職は一定の役割と存在価値を持つのではないか、と現在の筆者 は考えていることを申し上げました。

 今回は「こころの相談の専門家」としての宗教者の役割について考えてみます。

 筆者が小・中学生であった昭和四十年代の頃、寺の住職は、地域のご意見番的 なステータスを持ち、近隣から持ち込まれるあらゆる相談ごとを解決する役割を 担ったものでした。「住職」というだけで一目おかれ、その発言内容は「住職が 言ったから」というだけで大きな重みを持ったものです。

 それから時が流れ、住職の社会的地位も変容しましたが、現在でも檀信徒の方 からさまざまな相談が寄せられます。その内容は近隣とのもめごとに加えて家族 間の問題、病院、介護施設、学校や勤務先などの対応への不信感など多岐にわた ります。それらは「制度・法律の問題」と「こころの問題」に大別され、前者に ついては筆者が平素勉強会等でお世話になっている弁護士先生、税理士先生等の 専門家の方を紹介することにしています。  ただ、単に右から左へ回しているだけでは宗教者としての役割を果たしている とは言えませんので、案件の概要と問題点をしっかり整理し、相談者さんの心の ささくれ、わだかまりを少しでも緩和し、軽くした上で専門家の方につなぐこと を心がけています。

 後者は基本的に宗教者が最終回答者としての責任を持ち、問題解決にあたるよ う努力すべき性質のものです。お連れ合いを亡くされた悲しみから癒えない方、 体調不良からこころも不安定な状態になっている方、お子さんやお孫さん関連の 悩み事を抱えている方等、さまざまな方からご相談をもちかけられます。  数年前ですが、ある檀家さんが見えました。息子さんが職場のトラブルに悩ん だ末、自ら命を絶った、というお話をされました。その際筆者はご葬儀に関する 一連の段取りを引き受けたことはもちろんですが、それに加えて自死遺族の会を 主宰しておられる異宗派の僧侶の方にその檀家さんを紹介しました。  結果的にその僧侶さんのご尽力により、檀家さんは心身の安寧を取り戻しまし たが、私はこの一連の出来事に際し、「ご家族が亡くなるまで声をかけていただ けなかった(息子さんが悩んでいた時点でその檀家さんの相談相手となれなかっ た)自分の不甲斐なさ」を痛感し、しばらくの間立ち直れませんでした。

 いかなる悩みを持った方からも声をかけていただくような存在になる。これは 言うは易し、行うは難しで、平素の研鑽と徳の積み上げが必要です。加えて、カ ウンセリングやスピリチュアルケアの理論や実践方法をしっかり学び、相談者さ んの気持ちに寄り添い、ともに悩むことが求められます。  さらにその上で対外的な活動を行い、認知度を高め、何かあったときに真っ先 に思い出していただく存在になる。  そして「相談してよかった」と思っていただける宗教者になる。人工知能には 決して取って代わられない、そのミッションを全力で担当する覚悟を持ち、真摯 に、丁寧に、ご縁のあるすべての方に接する。その先に「社会から求められる僧 侶・住職」の姿があるのではと、筆者は考えます。


(宗教法人アカウンタント養成講座 講師 高橋 泰源)