宗教アカウンタント通信No.84


○死後離婚


〇死後離婚

 死後離婚。配偶者が死去した後に「離婚」する。どういうことでしょうか。 夫婦の片方が亡くなると婚姻関係は終了することは民法で定められています。し たがって、当然のことながら離婚届は必要ありません。しかし、親族との関係( 姻族関係)は継続されることになります。 「姻族関係終了届」を役所に提出することにより、この関係を切ることを一般 的に「死後離婚」と呼んでいます。この「死後離婚」に関する士業の先生等への 問い合わせが最近増えているようです。メディアでも頻繁に目にするようになり ました。

 姻族関係が継続されると、義理の両親や兄弟姉妹との関係が続きます。この関 係を切ることにより、配偶者の両親、つまり義父母については、身辺の世話や介 護の義務から解放されます。また金銭問題等に巻きこまれることを回避できます。

 一方お墓に関しては、「亡くなった夫と一緒のお墓に入りたくない」「折り合 いの悪い義父母と一緒のお墓に入りたくない」という希望をかなえられ、同時に 義父母のご先祖様の墓所を管理する義務からも逃れることができます。 それでいて、夫との関係は法的にはあくまで「死別」ですから遺産や遺族年金 は受け取れます。 配偶者、あるいは配偶者の親族に対するネガティブかつドライな感情の率直な 発露、とでも言いましょうか。そこに至るには損得勘定のみならず、生前に積も り積もったさまざまな思いがあるのでしょう。

 筆者の寺には、このような相談はまだ来ておりません。ただ、世帯主の方が亡 くなり、四十九日納骨を終えると、途端に音信が途切れる檀信徒さんはおられま す。墓地管理者の立場で申せば、墓地継承者さえしっかり決めてご連絡をいただ き、年間の管理料を納めた上でご法事(年回法要)を行っていただければ問題あ りません。菩提寺の住職として檀信徒さんのご家族の問題に必要以上に立ち入る ことにも重々配慮が必要です。

 しかしながら、仏教の基本である慈悲、いつくしみの心に立ち返り、有縁無縁 一切の精霊を供養する、という精神を思うとき、亡くなった配偶者、あるいはそ の親族の方へのお気持ちを断ち切ることには、慎重なうえにも慎重であっていた だきたいものだと感じます。お互いがお互いを思いやり気を配り世話をする、そ してそのことに互いに見返りを求めない。多くを望まない。ほどほどのところ、 「いい加減」の水準で関係を保つ。そんな状態を模索してみては、と筆者は考え ます。

本年も拙文をお読みいただきありがとうございました。

みなさま良いお年を。


(宗教法人アカウンタント養成講座 講師 高橋 泰源)