宗教アカウンタント通信No.86○葬儀と告別式〇葬儀と告別式 お分かりの方も多いかもしれませんが、おさらいの意味をこめて。「葬儀」 と「告別式」は、別の目的で行われます。葬儀は宗教的な儀式です。仏式の葬 儀におきましては、導師という役割を務める僧侶が故人に仏の弟子としての戒 名と戒律を与え、血脈(けちみゃく)という手紙を渡し(棺に入れられます)、 浄土へ導きます。 一方、告別式は故人とその知人との惜別の式典です。死を公示するとともに、 故人と親交のあった人たちが、故人に最後の別れを告げるものです。葬儀とは 異なり、本来は宗教的な意味合いはありません。もともとは遺体を埋葬する際 に墓前にて行われたともいいます。近年は葬儀に続けて斎場で行われることが 多く、弔電や弔辞の奉読、棺への花入れ、棺の蓋閉め、釘打ち(行わないこと もあります)などが主な所作です。 しかしながら、最近はこの告別式を葬儀とは別の日に行うことも増えてきま した。「お別れの会」と称されるものです。筆者が先日参加したお別れの会は、 たいへん素晴らしいものでした。 その方は番組制作会社のプロデューサーをされていた方で、49歳という若さ で突然、本当に突然旅立ってしまいました。僧侶としてではなく、ひとりの友 人としてご葬儀には参列させていただきましたが、あまりにも急な知らせに気 も動転しており、ご遺族にもお声をまともにかけることもできず、早々に失礼 させていただきました。 それから3週間後、都心の中華料理店で立食パーティー形式での別れの会に 呼んでいただきました。200人を上回る方が出席し、立錐の余地もないとい う表現も過剰ではないほど。故人が演出したドラマに出演された俳優さんたち の弔辞もそれぞれに感動的でしたが、決して湿っぽくなることはなく、その愛 すべき人柄で多くの人に親しまれた故人の人となりが偲ばれる、笑いの絶えな い会でした。ご遺族もご満足されていたご様子でした。 帰路、ひとりで考えました。現在、「お別れの会」は、社会において一定の 成功を収めた方の旅立ちに際して行われることが多いと思いますが、今後は一 般の人についても、「告別式は葬儀と分けて別の日に『お別れの会』として行 う」というやり方が主流となるのではないか。生きることや老いることと一緒 で、死ぬことを恐れるな、と説いたお釈迦様の思想を体現する意味でも、「明 るいお別れ」は意義のあることではないか。そして、そこには基本的に僧侶は 必要とされず、ゆったりした時間の中で故人のゆかりの品や写真、映像時間を 皆で見て、思い出をのんびりと語り合う。そんな「葬儀と告別式が完全分離す る日」が遠くない日にやってくる気がします。 その分、通夜・葬儀の簡素化に拍車がかかるかもしれませんが、それもまた 時代の流れかもしれません。(宗教法人アカウンタント養成講座 講師 高橋 泰源)
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