宗教アカウンタント通信No.92


○改めて檀家制度を考える(1)


〇改めて檀家制度を考える(1)

 皆様ご存知の通り、7月、8月はお盆の時期にあたります。多くの檀家さんが お墓参りのために寺を訪れてくださいます。拙寺をはじめ、大部分の寺院が墓 所を持ち、その墓所の一区画一区画を永久に使用する権利を檀家さんに貸して います。この制度により、数十年にわたって寺や住職と檀家さんは結びつきを 維持し、主に年会法要や葬儀などの仏事を通して関係を保ってきたわけです。 ところが近年、檀家制度を廃止する寺院が出てきました。先進的な試みを好む 住職の寺院で特に目にするように思います。今回はこの問題について考えてみ ます。

 そもそも檀家制度は寺請制度にその源流を持ちます。寺請制度は17世紀初頭、 江戸幕府が宗教統制の一環として設けた制度であり、寺から証文を受けること を民衆に義務付け、その民がキリシタンではないことを寺院に証明させる制度 でした。

 寺請制度の確立によって民衆は、いずれかの寺院を菩提寺と定め、その檀家と なる事を義務付けられました。 それから400年以上の時を経て、現在は寺に墓所を持つためにのみ寺と檀家 さんが繋がっており、葬儀や年会法要といった仏事でしか寺と檀家さんが接点 を持たない例が増えてきています。

 このような状況の中、檀家制度を全廃し、会員制度への移行を試行する寺院が 近年増えて来ました。その背景には、最低限度の法要すら営まず、菩提寺の運 営に対して協力的な姿勢を見せず、伽藍の改築や修繕などの事業に対しても関 心を持たない一部の檀家さんの存在があります。もちろんこれは寺院側の理屈 であり、檀家さん側にも「うちの菩提寺の住職の行状はとても尊敬・尊重でき るようなものではない」「檀家には檀家の生活があり、それをさしおいて菩提 寺の事業に寄付等で協力することが義務だとは思わない」「菩提寺には葬儀と 年会法要だけやってもらえば十分で、それ以上の関係は望まない」といった言 い分があろうと思います。

 さて、新たな「会員制度」とはどのようなものなのか。フレームは導入してい る寺院によってまちまちですが、おおむね以下の共通項が浮かび上がります。 ・おおむね年単位で、その寺院の教義や経営方針に賛同する個人が年会費を納 めて会員となる。 ・会員は寺院開催のイベントに積極的に参加する。 ・会員はその寺の墓所や納骨堂、客殿などを優先的に利用できる。 ・継続的な加入の義務はなく、一年限りで退会するのも再入会するのも自由。 ・会員、非会員を問わず、葬儀や年会法要をその寺院の僧侶に頼むも頼まない も自由。

 要するに、「本気で寺院の活動を手伝ってくれる人たちだけと一緒に頑張って いきたい」といったところが、会員制度を導入した 寺院の本音であろうかと思います。何やらスポーツや音楽のサークルにも似た テイストを感じたりもします。

 かなりドラスティックな改革であり、実際に役員会や世話人会で住職がこの話 を持ち掛けると、まず例外なく檀家総代や世話人さんからは否定的な反応が返 ってくるそうです。  では、それを乗り越えて会員制に移行した寺院の現状はどうなっているのでし ょうか。次号に続きます。


(宗教法人アカウンタント養成講座 講師 高橋 泰源)