宗教アカウンタント通信No.96


〇人生百年時代に向けて


〇人生百年時代に向けて

「ごめんなさい、いつまでも生きているのはおかしい。何も悪いことしたわけ じゃないけど」

 厚生労働省の調査によれば、現在は7万人である100歳以上の高齢者が、 2050年には53万人に達するのだそうです。そんな問題を取り上げた先日 のテレビ番組。NHKスペシャル「人生100年時代を生きる」で、現在サー ビス付き高齢者向け住宅(サ高住)に入居している100歳の男性がもらした のが冒頭の言葉です。彼は認知症で、車いすに乗ったままサ高住を出て近所を 徘徊していたところを職員に保護されました。連れ戻されたときに両手を合わ せて上の言葉を発したのです。

 こんなに寂しい言葉が高齢者の口からきかれたことが、いまだかつてあった でしょうか。

 我々は昔から、「高齢者は一日でも長く生きたいと願い、その家族はそのた めに最大限の支援をする」という大原則を信じて曾祖父母や祖父母を介護し、 看護し、見送ってきました。近年、医療技術の進歩に伴い、末期において「延 命治療を行うかどうか」の選択を迫られることも増えましたが、この方は車い すに乗り、認知症であっても見た目は健康であり、「死」にはまだある程度距 離のある方だとこちらは勝手に思ったのです。そんな方が、周囲に迷惑をかけ ていることを自覚したうえで「自らを無理やり死に近づけている」という気が したのです。

 宗教者、特に僧侶にとっても、こういった方の増加は大きな問題となってき ます。具体的には「まだお体はある程度の健康状態をキープしているが、周囲 との折り合いに苦労され、人生に対してネガティブに考えている高齢者の方」 をいかにケアしていくか。ケアというのもおこがましいのですが、少しでも気 持ちを穏やかに持っていっていただくために、心を込めて傾聴をさせていただ く。私も臨床宗教師の端くれとして、サ高住には何度もお邪魔させていただい ているのですが、今回テレビで見たような「徘徊―(保護)―自省」という行 動をされる方、「生きること」に対して自暴自棄になっているように見える方、 は今まではお見掛けしなかったので、改めて気を引き締めて、現場でどのよう な方にお会いしても言葉を失うことのないよう、しっかりと、かつ丁寧に、対 応したいと考えます。

 さしあたり、今、自分が、あのお年寄りに傾聴をさせていただくことになっ たら、どんな言葉をかけるだろうか。正解は容易には見つからないかもしれま せんが、試行錯誤をしながらも、最適解に近い答えを出して提示できるよう、 もがいていきます。それこそが宗教者としての使命だと思います。


(宗教法人アカウンタント養成講座 講師 高橋 泰源)